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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)37号 判決 1958年10月28日

原告 ヒロス化工株式会社

被告 三田与一 外二名

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一請求の原因

原告訴訟代理人は、別紙目録記載の事件番号欄記載の各事件につき、それぞれ同抗告審判番号欄記載の抗告審判事件について、特許庁が同審決年月日欄記載の日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告等の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、(イ)登録第九〇四一六号、(ロ)同第九〇四一七号、(ハ)同第九一九二四号各意匠及び(ニ)同第九一九二四号類似第一号意匠の意匠権者であるが、右(イ)及び(ロ)の意匠は昭和二十二年十二月十一日、(ハ)の意匠は昭和二十四年六月十七日(ニ)の意匠は同年六月二十一日、それぞれ登録出願にかかり(イ)(ロ)(ハ)はいずれも第三類肩掛鞄、(ニ)は同類手提鞄を指定商品とするものである。

これら意匠の登録について、別紙目録審判請求人欄記載の被告等は、同審判請求年月日欄記載の日に、同意匠登録番号欄記載の登録についてその無効の審判を請求したところ(同番号欄記載の各審判事件)、特許庁は、昭和二十七年三月二十九日右審判の請求を理由ありとし、前記各意匠の登録を無効とする旨の審決をなした。原告はこれら審決に不服であつたのでこれに対し抗告審判を請求し、別紙目録抗告審判番号欄記載の事件として審理されたところ、特許庁は、それぞれ同審決年月日欄記載の日、原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同送達年月日欄記載の日に原告に送達された。

二、これら審決の要旨は、いずれも審判において取り調べた証人宇都宮春仁の証言によれば、原告の有する前記各登録意匠と近似又は類似する肩掛鞄の意匠が、その登録出願前既に公然知られたことを十分認めることができるから、右各意匠の登録は、意匠法第一条の規定に違反してなされたものであり、これを無効とすべきものであるとしている。

そして、右認定の唯一の根拠である証人宇都宮春仁の証言中公知に関する証言の要旨は、(一)同証人が、本件登録出願前本件意匠にかかる物品を、別府市の日本ビーズ工業株式会社本社二階の陳列棚で見たこと、(二)同証人が、本件登録出願前本件意匠にかかる物品を、大分県宇佐町において製造し、福岡県若松市及び久留米市にて販売し、後に大分県中津市及び日田市にて販売したことである。

三、しかるに、(一)別府市の日本ビーズ工業株式会社には、昭和二十一年一月当時かかる物品を陳列する棚は全然なく、(二)同証人は前記宇佐町にて、かかる物品を製造した事実も全然ない。(三)被告日本ビーズ工業株式会社代表者永松昇は、別府市において、ビーズの敷物の製造販売をしていたが、原告がビーズ鞄を初めて製造したことを聞知し、これの取扱を欲し、昭和二十二年十二月原告の知人村田省蔵に対し、これが取扱方について、原告との間の斡旋を懇請し、その際「自分の方ではまだビーズ鞄を製造したことがないので、」と明言し、宇都宮春仁も、右会見の席に列席していた。

これらの点からしても、証人宇都宮春仁の証言は、全く虚構の事柄であることは明白である。

そればかりでなく証人宇都宮春仁は、被告日本ビーズ工業株式会社代表者永松昇の秘書であること、宇佐市で製造したものを別府市で販売しない筈はないのに、これを他の市で販売したと証言したのは、別府市と証言すれば、直ちに事実無根のことが暴露されるからであること等の事情よりしても、同証人の証言は虚偽である。

かかる信用するに足りない証人の証言を唯一の証拠とし、原告の申請した証人の尋問をもなすことなくした審決は違法であるから、これが取消を求めるために本訴に及んだ。

第三被告の答弁

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対して、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを認める。

二、同三の事実を否認する。

訴外宇都宮春仁は昭和二十一年一月北京から引揚げ、被告日本ビーズ工業株式会社々長永松昇を訪ねて就職を依頼したところ、同人から竹ビーズと竹ビーズ製バツクを示され、これを見本にして竹ビーズバツクを編み上げることをすすめられたので、その見本又は写真を廻して貰い、大分県宇佐町の自宅において、検乙第一号から第十一号までのような竹ビーズ製バツクを製造し、当時福岡県若松市訴外今井義晴、久留米市訴外園田伍三郎等に販売し、その後なお大分県中津市、日田市においても、これを販売したものである。

第四証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、右事実及びその成立に争のない甲第一ないし第四号証によれば、原告が有する本件各登録意匠は、次のとおりであることが認められる。

(イ)  登録第九〇四一六号意匠は、昭和二十二年十二月十一日登録出願にかかり、その考案の要旨は、鞄の容体の正面及び裏面が横が縦より稍長い長方形、側面(胴)が厚巾の縦長方形、蓋が上前開きで容体正面上部にある丸形の紐掛止の釦によつてとめられ、肩掛用のバンドを備えた肩掛鞄(シヨールダーバツク)で全体に竹ビーズの併列模様を表わしたものの、形状及び模様の結合に存すること。

(ロ)  登録第九〇四一七号意匠は、昭和二十二年十二月十一日登録出願にかかり、その考案の要旨は、鞄の容体の正面及び裏面が下尖り五角形(上辺と左右辺とは直角をなす。)、及び側面(胴)が厚巾の縦長方形、蓋が上前開きで容体正面上部にある丸形の紐掛止の丸釦によつてとめられ、肩掛用のバンドを備えた肩掛鞄で、全体に竹ビーズの並列模様を表わしたものの、形状及び模様の結合に存すること。

(ハ)  登録第九一九二四号意匠は、昭和二十四年六月十七日登録出願にかかり、その考案の要旨は、鞄の容体の正面及び裏面が横長の長方形、側面(胴)が横長の円鋳状、蓋が上前開きで容体正面上部にある丸形の紐掛止の釦によつてとめられ、肩掛用のバンドを備えた肩掛鞄で、全体に竹ビーズの並列模様を表わしたものの、形状及び模様の結合に存すること。

(ニ)  登録第九一九二四号類似第一号意匠は、昭和二十四年六月二十一日右(ハ)の類似意匠として登録出願にかかり、その考案の要旨は、鞄の容体の正面及び裏面が横長の長方形、側面(胴)が正方形、蓋が容体上部にある丸形の紐掛止の丸釦によつてとめられ、手提用のバンドを備えた手提鞄(ハンドバツク)で、全体に竹ビーズの並列模様を表わしたものの、形状及び模様の結合に存するものであること。

三、審決は、原告の有する右各登録意匠の考案の要旨とするところは、いずれも、原告の意匠登録出願前に、わが国内において当然知られたものに類似し、その登録は意匠法第一条に違反し無効とすべきものとしたものであるから、この点について判断するに、その成立に争のない乙第一号証(特許庁における証人宇都宮春仁の尋問調書)、証人宇都宮春仁、今井義晴の各証言及び検乙第一ないし第十一号証を総合すると、訴外宇都宮春仁は、昭和二十一年中、大分県宇佐郡宇佐町において、竹ビーズを用いて、婦人用の肩掛鞄、ハンドバツク等を製造し、当時これを福岡県若松市訴外今井義晴等を通じ一般に販売していたが、それら肩掛鞄、ハンドバツクのうちには、鞄の容体の正面及び裏面が長方形のもの、五角形のもの、六角形のもの、矩形(箱型)のもの、胴が縦長の長方形のもの、三角形のもの、円鋳形のものがあり、蓋はかぶせ蓋式で丸い竹ボタンでかけるものや、真中で合せ式にとめたものがあり、これらには竹ビーズで編んだ肩掛用又は手提用のベルトが付せられたものが存在したものであることが認められ、原告の提出援用にかかる甲第五、六号証の記載、証人広田義夫、三田与一及び原告会社代表者南郷茂宏の証言及び供述を以つては、未だ右認定を覆えすに十分ではない。

してみれば、前に認定した原告の本件各登録意匠の考案の要旨とするところは、いずれもその出願前、わが国内において、前記宇都宮春仁、今井義晴等により製造販売されていた竹ビーズ製肩掛鞄又はハンドバツクと類似するものと判断せざるを得ないから、原告の前記各意匠の登録は、意匠法第一条に違反してなされたものとして、これを無効としなければならない。

四、すなわち以上の判断と同一に出でた審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求は、いずれもその理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

(別紙目録省略)

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